まずは一旦、このゴールの映像を騙されたと思って1回見てみましょう。
このゴールを見た時に、何を考えますか?
おそらく、一般的な人が率直に抱く感想は「カップ戦決勝の同点ゴールだ」というものだと思います。それは事実ですし、事実としてはそれ以上でもそれ以下でもありません。
ただ、この数年、ずっとベレーザを追いかけている私にとって、このゴールにはそれ以上の思い入れがあります。
というのも……(長い語りが始まります)
私がベレーザを応援すると決めたタイミングで、小林里歌子は大きな怪我から復帰したばかりの選手でした。あまり長いプレー時間を見ることはできず、どちらかといえば「本来の姿をまだ見られていない選手」という印象でした。ちょうど左膝内側半月板損傷から復帰して間もない時期だったと記憶しています。
しかし、シーズンが進むにつれて出場時間を増やしていき、そのシーズン、彼女は皇后杯制覇に大きく貢献しました。目に見える数字以上に、当時ベレーザに所属していた植木理子と共に前線を牽引し、特にフィジカル面に強みを持つ彼女のもとには、チームメイトから次々とボールが集まっていました。数字には表れにくいながらも、「なくてはならない存在」としてチームに君臨していたと思います。なお植木がゴールを取りすぎていたので少し霞んでしまいますが、リーグ戦では6ゴールを記録しています。
そのシーズンのオフ、小林里歌子は海外挑戦のためアメリカのチームへ移籍しました。しかし、その移籍先では怪我もあり、思い半ばで出場のないまま契約解除に。そして改めて、ベレーザへの復帰を決断します。
復帰してからの数ヶ月はリハビリの日々でした。そろそろ復帰も視野に入ってきたのではないか、というタイミングで、こんなリリースが出ました。
小林里歌子 選手の負傷について
11月12日(火)のチームトレーニング中に負傷しました小林里歌子 選手が以下の通り診断を受けましたのでお知らせします。診断名:左アキレス腱断裂
全治:約6ヶ月
https://www.verdy.co.jp/beleza/news/13606
彼女のインスタグラムでは、約1年半を膝のリハビリに費やしてきたこと、そして復帰間近だったことが綴られていました。その悔しさが滲む投稿を目の当たりにして、こちらまで言葉を失うような感覚がありました。
その一方で、ベレーザはWEリーグ初制覇。前回タイトルを獲得した時にはチームの中心にいた小林里歌子が、今回はピッチの外からその姿を眺めることに。本人にしか分からない悔しさがあったはずです。
そして、晴れて今季の開幕戦。アウェイの神戸戦、奇遇にも彼女の地元で、2年以上ぶりの実戦復帰へと踏み出しました。怪我に次ぐ怪我。その悔しさに、慰めの言葉すら簡単にはかけられないような時間があったはずです。それでも諦めず、復帰に向けて突き進む姿に心を打たれました。
そこから次節以降、再びチームを離れる時期もありましたが、数ヶ月後のWEリーグカップで再びピッチへ戻ってきました。そこからは怒涛の勢いで存在感を高め、得点力に苦しむ前線の中で大きな役割を果たします。
グループステージでは長野戦でハットトリックを達成するなどゴールを重ね、準決勝第2戦でも貴重なゴールを決め、チームの決勝進出に大きく貢献しました。

そして、ついにやってきた決勝。チームのバンディエラである岩清水梓が引退を発表し、数多のタイトルを獲得してきた彼女がまだ手にできていなかったWEリーグカップを、その手中に収めるための一戦でした。
しかし、試合は開始早々に手痛い失点。その後もベレーザは幾度となく攻撃を続けますが、大宮の堅い守備に手を焼き、前半をビハインドで折り返します。
そして迎えた後半。幾度となく怪我に苦しみ、怪我に泣いてきた彼女のもとに届いたパス。見事なトラップで前を向き、最後は迷いなく右足を振り抜きました。
後のインタビューで、岩清水が祈るような気持ちで戦況を見つめていたと語っていた中で、突破口を開いたゴール。それが、最初に見てもらったあのゴールです。
小林里歌子らしい、細かいコースを射抜くというよりも、迷いなく振り抜く力強いシュートでした。ややコースが甘くなりながらも、それを上回る勢いでボールがネットに突き刺さります。
そういったストーリーを歩んできた小林里歌子のゴールだからこそ、震えるほど嬉しかった。ただの「決勝戦での同点弾」という事実以上に、私にとっては価値のあるゴールでした。

なぜこの話を最初に書いたのかというと、このゴールは背景情報がどれだけあるかによって、見え方がまったく変わってくると思ったからです。ゴールそのものだけでなく、その後に喜びを爆発させる写真を見た時の感情の揺れ方も、大きく変わってくるはずです。
スマホの中を流れてくる誰かにとって、このWEリーグカップ優勝は「へー」で終わる情報のひとつかもしれません。ただ、こういうストーリーを踏まえると、その価値はまったく違うものになります。言葉にすると少し野暮かもしれませんが、それでもちゃんと文字に起こしておくからこそ、伝わるものがあるのではないかと思い、書いてみました。
ということで、ここからは少し視点を引いて、ベレーザというチーム全体にフォーカスしてみます。
このリーグカップ優勝は、単なる優勝とは少し意味が違うと考えています。
昨年のリーグ優勝メンバーがほぼ残留。それだけではなく、浦和から猶本光、塩越柚歩というチームの顔ともいえる中心選手が加入しました。昨季リーグ優勝を果たしたチームに、さらに強力な戦力が加わった形です。
加えて、浦和でリーグ連覇を成し遂げた楠瀬直木監督の招聘にも成功。その後、大場朱羽も加入し、国内3冠にAWCLを加えた4冠すら期待したくなるほどの戦力が揃いました。
そんな圧倒的な戦力を有する新生ベレーザでしたが、壁はいきなり目の前に立ちはだかりました。
いまだリーグ戦では一度も勝利したことがないINAC神戸レオネッサとの開幕戦。結果はまさかの0−2で敗戦。戦力が噛み合わず、攻撃の形を作ることにも苦しむ試合となり、スタートダッシュに失敗しました。
その後も、第3節の三菱重工浦和レッズレディース戦で敗戦。4冠を期待したくなるチームにとって、苦しい形で新シーズンがスタートしました。
一方で、その後は好調を維持します。新加入の塩越がアタッカーとしてフィットしてからは、破竹の勢いで勝ち星を重ね、6連勝を記録しました。
しかし、ホームで迎えた広島戦、アウェイに乗り込んだ大宮戦では、それぞれリードしながらも追いつかれる形で勝ち点を失います。その後のマイナビ仙台レディース戦では、敵地でまさかの敗戦。順調に見えたチームに、再び不穏な空気が漂い始めました。
それでも、そこから再び連勝街道へ。順位表で並んだ神戸との直接対決を迎えます。これに勝てば、リーグ連覇への望みを大きくつなげられるビッグチャンスでした。
しかし、その試合で再び0−2の敗戦。
※I神戸に負けた時、毎回べろべろになるまで飲んでる
この後、ホームでエルフェンにも敗れてしまったことで、リーグ連覇の夢はかなり怪しくなってきました。こちらとしても「ぐぬぬ……」という状態です。
そんな中で並行して進行していたWEリーグカップでは、「PK負・勝・勝・PK負・勝・勝」という、なんともPKに弱そうな試合結果でグループリーグを突破。最後のジェフ戦ではリードを許しながらも、ラスト5分で大逆転という滑り込みの形で決勝ラウンドへ進出しました。

https://www.verdy.co.jp/beleza/match/schedule/2025
正直、この時点のベレーザは「圧倒的な強さで全部をなぎ倒すチーム」というよりも、「強いのは間違いないけれど、どこか噛み合いきらない時間もあるチーム」でした。戦力は揃っている。個の質も高い。選手層も厚い。けれど、それがそのまま結果に直結するほど、サッカーは簡単ではありません。
昨季までのベレーザには、ある種の積み上げがありました。選手同士の距離感、攻撃のテンポ、ボールを動かすリズム、誰がどこで受けて、誰がどこに走るのか。そうしたものが、時間をかけてチームの中に染み込んでいました。
そこに新たな選手が加わり、新たな監督が加わり、目指すサッカーも少しずつ変わっていく。もちろんそれは前向きな変化です。ただ、前向きな変化であっても、すぐに完璧な形になるわけではありません。
だからこそ、このカップ戦はベレーザにとって、ただタイトルを獲るためだけの大会ではなかったのだと思います。新しいベレーザが、本当に勝ち切れるチームになれるのか。苦しい試合を乗り越え、タイトルを懸けた舞台で結果を出せるのか。その問いに向き合う大会でもありました。
決勝ラウンドでも、ベレーザは決して楽に勝ち上がったわけではありません。圧倒的な戦力差を見せつけて悠々と決勝へ、というよりも、苦しい時間を耐え、少ないチャンスをものにし、粘り強く勝ち上がっていった印象の方が強いです。
そして迎えた決勝の相手は、大宮アルディージャVENTUS。リーグ戦でも苦しめられた相手であり、決して簡単に崩せるチームではありません。
大宮のスタジアムで発売されているシーシャバーみたいな値段のレッドブルウォッカも簡単ではありませんでした(※主に値段が)
実際、決勝でも大宮の守備は非常に堅く、ベレーザはボールを持ちながらも、なかなか決定的な形を作り切れませんでした。開始早々の失点もあり、試合の空気はかなり重かったと思います。
4冠を期待したくなるほどの戦力。岩清水梓のラストシーズン。まだ獲れていなかったWEリーグカップ。新加入選手を加えた新しいチームの最初のタイトル。いろいろな意味が、この決勝には乗っていました。
だからこそ、あの小林里歌子の同点ゴールは大きかった。
単にスコアを1−1に戻しただけではありません。重たくなっていた試合の空気を変え、ベレーザに「まだいける」と思わせるゴールでした。見ている側としても、あの瞬間に一気に感情が動きました。
そして、そこからベレーザは試合をひっくり返し、ついにWEリーグカップのタイトルを手にしました。
ただ、勝ったから言えることではありますが、延長戦でのクロージングについては、ちゃんと怒られてほしいです。笑
あと、ここまでWEリーグカップでは「PK負・勝・勝・PK負・勝・勝」という流れで、去年の皇后杯でもPKをストレート負けするという、PK戦よわよわ軍団という印象が強かったのに、なぜか決勝のPK戦ではストレート勝ち。意味が分からなさすぎて、こちらの心が壊れちゃいそうでした。
この優勝は、もちろん岩清水梓にとって大きなタイトルです。長くベレーザを支え、数えきれないほどの栄光を手にしてきた選手が、まだ持っていなかったタイトルを最後に掴んだ。それだけでも十分にドラマがあります。
ただ、それだけではありません。
怪我から戻ってきた小林里歌子のゴールがありました。新加入の選手たちが、少しずつチームの中で役割を掴んでいく過程がありました。リーグ戦で思うようにいかない試合があり、神戸に勝てない悔しさがあり、取りこぼしへの焦りがありました。
そして、もうひとつ忘れたくないのが菅野奏音のことです。

ここまでチームの中心として戦い、今季は10番を背負いながら、大車輪の活躍を見せてきた選手が、決勝の舞台に立てなかったことは本当に悔しかったと思います。チームとしてタイトルを獲れたことはもちろん嬉しい。それでも、あの舞台に奏音ちゃんがいなかったことには、どうしても寂しさが残ります。
数年前に皇后杯を獲った時も、奏音ちゃんは松葉杖をついていた記憶があります。だからこそ、またしっかり治して、次なるタイトル獲得に向けて、ピッチの上で思いきり戦う姿を見せてほしいです。
その全部を抱えた上でのタイトルでした。
強いチームが、ただ順当に勝った優勝ではない。強いはずなのに苦しみ、期待されているのにうまくいかず、それでもチームとして少しずつ形を作りながら掴んだ優勝。だからこそ、このWEリーグカップ優勝には重みがあるのだと思います。
そして、ここでもう一度、最初の話に戻ります。
サッカーの写真や映像は、それ単体でももちろん魅力があります。美しいゴール、歓喜の表情、抱き合う選手たち、涙を浮かべる姿。そうした一瞬には、それだけで人を惹きつける力があります。
ただ、その一瞬の奥にある文脈を知っているかどうかで、受け取り方はまったく変わります。

※1人目のキッカー朝生がルーキーなのにクールにPKを決めて帰ってきたのに、2人目の大ベテランは「やべ〜〜〜〜〜〜〜〜」みたいな顔で帰ってきた(ピッチもベンチも驚きすぎてずっこけてた)という写真です
小林里歌子が決めた同点ゴールを、ただの同点ゴールとして見るのか。長いリハビリを経て、何度も怪我に苦しみながら、それでも戻ってきた選手のゴールとして見るのか。
岩清水梓がカップを掲げる姿を、ただの優勝セレモニーとして見るのか。数多くのタイトルを獲ってきたバンディエラが、最後にまだ手にしていなかったタイトルを掴んだ瞬間として見るのか。
そこには大きな差があります。
情報として流れてくる「ベレーザ優勝」と、物語として受け取る「ベレーザ優勝」は、まったく別のものです。
だから私は、スポーツにおいて写真や映像と同じくらい、文脈を残すことが大事だと思っています。
もちろん、全部を説明しすぎるのは野暮です。ゴールの美しさ、歓喜の爆発、選手たちの表情。そういうものは、まず感覚で受け取ればいいものだと思います。
でも、その一瞬にたどり着くまでの時間を知っていると、写真の見え方は変わります。映像の重みも変わります。選手の表情ひとつに、こちらが勝手に背負ってしまう感情の量も変わります。
スポーツの面白さは、試合そのものだけにあるわけではありません。その試合に至るまでの時間、選手が歩んできた道、チームが抱えてきた課題、サポーターが積み重ねてきた感情。そういうものが全部重なった時に、ひとつのゴールやひとつの写真が、ただの記録ではなく記憶になります。
今回のWEリーグカップ優勝は、まさにそういう優勝だったと思います。

圧倒的な戦力を揃えたチームが、決して順風満帆ではない時間を過ごしながら、それでも最初のタイトルを掴んだ。怪我に苦しんだ選手が、決勝の舞台でチームを救うゴールを決めた。長くチームを支えてきたバンディエラが、まだ手にしていなかったタイトルを掲げた。
これだけの要素が重なった優勝を、ただ「ベレーザがカップ戦で優勝したらしい」で終わらせてしまうのは、あまりにももったいない。
だからこそ、こうして文字に残しておきたいと思いました。
数年後にこのゴールを見返した時、「ああ、あの時の小林里歌子のゴールか」と思い出せるように。岩清水梓がカップを掲げたあの瞬間に、どんな意味があったのかを忘れないように。そして、新しいベレーザが最初に掴んだタイトルが、どんな苦しさの先にあったのかを、ちゃんと覚えておくために。
そして、ベレーザのシーズンはまだ終わりません。
チームにはこの先、AWCLの準決勝、そして決勝が控えています。ここまで来たからには、しっかり勝って、イワシの引退を美しく飾ってほしい。WEリーグカップを獲って終わりではなく、このチームならまだ先へ行けると思わせてくれるだけのものがあります。
岩清水梓のラストシーズンに、もうひとつ大きなタイトルを。そう願わずにはいられません。
この優勝は、ただの1タイトルではありません。
小林里歌子の復活であり、岩清水梓の物語であり、新生ベレーザの始まりを告げるタイトルでした。そして、菅野奏音が再びピッチに戻ってくる日を待ちながら、チームがさらに先へ進んでいくためのタイトルでもあったと思います。
……と、ここまで色々と書いてきました。
文脈がどうとか、物語がどうとか、写真や映像の見え方がどうとか、いろいろ理屈っぽいことも書きました。
でも、最後に残る気持ちはとてもシンプルです。
ベレーザ、WEリーグカップ優勝おめでとう。
そして、やっぱりどう考えても、めちゃくちゃ嬉しい。
うれし〜〜〜〜〜〜!!!!!!