WEリーグは「上を目指せる場所」になれているか

セレッソ大阪ヤンマーレディースの2026/27シーズン新体制を見たとき、率直にこう思いました。

え、何これ。

選手、18人しかおらんやん。

セレッソ大阪ヤンマーレディース公式:2026/27シーズン 体制および選手背番号について

普通に数え間違えたのかと思って、もう一回数えました。

やっぱり18人でした。

11対11の紅白戦すら組めない人数です。

しかも、これからリーグ戦だけでなく、WEリーグクラシエカップや皇后杯も戦っていく。怪我人やコンディション不良者が何人か出れば、ベンチを埋めることすら難しくなるかもしれません。

その後、7月4日に久保田晴香選手の加入が発表されたため、7月11日時点では19人となっています。

セレッソ大阪ヤンマーレディース公式:久保田晴香選手 新加入のお知らせ

なので、正確には「18人でシーズンを戦うことが確定した」わけではありません。最初の発表にも「6月29日現在」と書かれていますし、今後さらに選手が加わる可能性もあります。

※この記事内の所属人数、移籍情報は2026年7月11日時点です。移籍市場は現在も動いています。

「リーグをなめとるんか」と思った

それでも、新体制発表時点で18人。

最初に湧いてきたのは、心配よりも、どちらかというと憤りでした。

プロリーグを戦うクラブとして、さすがに少なすぎませんか。

リーグをなめとるんか。

そんな気持ちがありました。

ただ、ここでWEリーグの規約を確認してみます。

WEリーグ公式:WEリーグ規約

WEリーグのトップチームに求められているのは、シーズン中、プロ契約選手を常時15人以上保有し、そのうち5人以上をプロA契約選手とすることです。

つまり、所属選手が18人、あるいは現在の19人であっても、必要な契約条件を満たしていれば規約上はWEリーグのクラブとして成立します

もちろん、「規則を守っているから十分ですわ^^」という話ではありません。

でも逆に言えば、WEリーグは、すべてのクラブに25人、30人のプロ選手を抱えることを最初から要求できるほど、経済的に成熟したリーグではないということでもあります。

そして私は、今季の移籍情報をずっと追っている中で、あるクラブの補強を見て、少し考え方が変わりました。

長野を見て、少し考えが変わった

そのクラブが、AC長野パルセイロ・レディースです。

AC長野は今夏、なでしこリーグ1部・2部から、以下の4選手を獲得しています。

  • 町田実香選手(南葛SC WINGS/なでしこリーグ2部)
  • 塩谷瑠南選手(岡山湯郷Belle/なでしこリーグ1部)
  • 橘麗衣選手(朝日インテック・ラブリッジ名古屋/なでしこリーグ1部)
  • 常田麻友選手(伊賀FCくノ一三重/なでしこリーグ1部)

AC長野公式:町田実香選手 南葛SC WINGSより完全移籍加入のお知らせ

AC長野公式:塩谷瑠南選手 岡山湯郷Belleより完全移籍加入のお知らせ

AC長野公式:橘麗衣選手 朝日インテック・ラブリッジ名古屋より完全移籍加入のお知らせ

AC長野公式:常田麻友選手 伊賀FCくノ一三重より完全移籍加入のお知らせ

なでしこリーグで継続的に試合へ出てきた、いわば実戦経験のある選手を、シーズン途中にまとめて引き上げているわけですな。

これは今季だけではありません。

昨季、愛媛FCレディースから加入した筬島彩佳選手は、加入初年度となった2025/26シーズンにWEリーグ全22試合へ出場しました。

AC長野公式:筬島彩佳選手 契約更新のお知らせ

なでしこリーグでプレーしていた選手がWEリーグへ移籍し、いきなりシーズンを通して戦力になる。

選手にとっては大きなステップアップであり、クラブにとっても、即戦力を獲得できる。

これ、移籍市場での立ち回りとして、かなりうまいんじゃないか。

そう思ったわけです。

長野だけがやっているわけではない

もっとも、なでしこリーグから選手を獲得しているのは、長野だけではありません。

2026/27シーズンに向けた公式発表と移籍情報を照らし合わせると、2026年のなでしこリーグ所属クラブから選手を直接獲得しているWEリーグクラブは、現時点でAC長野、INAC神戸、日テレ・東京ヴェルディベレーザの3クラブでした。

INAC神戸レオネッサは、静岡SSUボニータから万力安純選手、オルカ鴨川FCから松尾菜月選手を完全移籍で獲得。

さらに、岡山湯郷Belleから三田一紗代選手を、2026年12月31日までの期限付き移籍で獲得しています。

INAC神戸公式:万力安純選手 静岡SSUボニータより完全移籍加入のお知らせ

INAC神戸公式:松尾菜月選手 オルカ鴨川FCより完全移籍加入のお知らせ

INAC神戸公式:三田一紗代選手 岡山湯郷Belleより期限付き移籍加入のお知らせ

万力選手は加入コメントの中で、今回を「初めてのプロリーグへの挑戦」と表現しています。

日テレ・東京ヴェルディベレーザも、静岡SSUボニータから水口茉優選手を獲得しました。

東京ヴェルディ公式:水口茉優選手 静岡SSUボニータより完全移籍加入のお知らせ

今季だけを見ても、AC長野が4人、INAC神戸が3人、ベレーザが1人。

完全移籍が7人、期限付き移籍が1人。少なくとも8人が、なでしこリーグからWEリーグへ直接ステップアップしたことになります。

さらに、直接の新規獲得とは少し違いますが、ちふれASエルフェン埼玉は、静岡SSUボニータへ2年間期限付き移籍していた大曽根由乃選手を復帰させています。

ちふれASエルフェン埼玉公式:大曽根由乃選手 期限付き移籍より復帰のお知らせ

大曽根選手は、静岡で2024年から2026年途中までプレーし、なでしこリーグで実戦経験を積んだ上でWEリーグへ戻ってきました。

これは「なでしこリーグから新たに獲得した選手」とは別枠ですが、WEリーグからなでしこリーグへ選手を送り出し、出場経験を積ませて呼び戻す育成ルートとして興味深い事例です。

つまり、なでしこリーグで結果を残した選手をWEリーグへ引き上げること自体は、長野だけの特殊な補強ではありません。

WEリーグにとって、なでしこリーグは明確な選手市場であり、育成の場の一つにもなっています。

ただ、その中でも長野が面白いのは、単に下のカテゴリーから選手を獲得していることだけではありません。

長野では「働く場所」が見えてくる

AC長野の選手の退団コメントを読んでいると、地域企業との関係がかなり具体的に見えてきます。

2025/26シーズン限りで長野を離れた大坪菜選手は、雇用先だった長野都市ガスへの感謝をコメントしています。

AC長野公式:大坪菜選手 南葛SC WINGSへ完全移籍のお知らせ

コメントには、サッカーに集中できる環境と、仕事との両立ができる環境を与えてもらった、とあります。

海外移籍を前提に退団した岩下胡桃選手も、勤務先だった信濃毎日新聞に対し、安心してサッカーに向き合える環境を与えてもらったと述べています。

AC長野公式:岩下胡桃選手の契約について

もちろん、現在の全選手について、クラブが就職先や住居を用意しているとまでは確認できません。

ただ、少なくとも複数の選手が、地域のパートナー企業で働きながら競技を続けられる環境を与えられてきたことは、公式コメントから確認できます。

なでしこリーグから選手を連れてくる。

WEリーグでプレーする機会を与える。

そして、サッカーだけでは生活が安定しない選手には、地域企業と連携して働く場所も作る。

誤解を恐れずに言うと、長野は、選手の能力だけではなく、その選手が長野で生活を続けるための仕組みまで含めて補強をしているように見えました。

限られた予算の中で選手層を確保する方法としては、かなり合理的です。

プロなのに働く。それはおかしいのか

ただ、ここで一つ、引っかかることがあります。

WEリーグって、プロリーグじゃなかったっけ。

プロサッカー選手としてクラブと契約しているのに、練習が終わったら別の仕事へ行く。

それは本当に、プロリーグが目指すべき姿なのか。

プロ選手であれば、トレーニング後の時間を身体のケアや休養、映像分析、自主練習に充てられる方が、競技面では望ましいはずです。

仕事との両立をしている選手と、サッカーだけに集中できる選手では、使える時間にも差が出ます。

なので私は、最終的には、希望するすべてのWEリーガーが、サッカーだけで飯を食えるリーグになってほしいと思っています。

これは単なる理想論でもありません。

WEリーグが2026年に公表した海外女子サッカーリーグの調査・分析レポートでは、WEリーグは、すべての選手に完全なプロフェッショナル環境を提供する途上にあると整理されています。

WEリーグ公式:海外女子サッカーリーグビジネス 調査・分析レポート

同レポートは、プロA契約に達していないB・C契約の選手も含め、全選手の年俸水準を引き上げることを「喫緊の課題」としています。

要するに、リーグ自身も、現在の環境が完成形だとは考えていないわけです。

ですよね。

こちとらプロリーグを名乗っとるわけですから、最終的にはそこを目指してもらわないと困ります。

でも、「働いているからプロではない」も違う

一方で、今すぐすべての選手をサッカー専業にできないからといって、現在の取り組みを全部否定するのも違うと思います。

そもそも、サッカー以外の仕事をしていることだけを理由に、その選手がプロではないとは言えません。

クラブとプロ契約を結び、報酬を受けて競技をしている以上、制度上はプロサッカー選手です。

仕事を経験することが、引退後のセカンドキャリアにつながる場合もあります。

生活が安定することで、むしろ安心して競技を続けられる選手もいるでしょう。

大事なのは、単純に「働いているか、働いていないか」ではなく、

その働き方を選手本人が納得して選べているのか。

仕事が練習や回復を大きく圧迫していないか。

サッカーだけで生活したい選手には、その道が用意されているか。

そこなんじゃないでしょうか。

働きながらプレーする仕組みは、プロリーグの完成形ではありません。

でも現状では、選手の生活を守り、競技を続けるための有効な手段でもあります。

皇后杯を見ると、上は上。でも断絶ではない

では、競技面ではどうなのか。

WEリーグは、公式にも「日本のトップリーグ」であり、なでしこリーグの上位に位置するリーグとされています。

WEリーグ公式:WEリーグについて

実際、皇后杯では、基本的にWEリーグ勢が大会の上位へ進んでいます。

2025年大会のベスト4は、INAC神戸、サンフレッチェ広島レジーナ、セレッソ大阪ヤンマーレディース、伊賀FCくノ一三重。

4クラブのうち3クラブがWEリーグ勢で、決勝もINAC神戸対サンフレッチェ広島というWEリーグ同士の対戦になりました。

JFA公式:皇后杯 JFA 第47回全日本女子サッカー選手権大会 トーナメント表

ただし、WEリーグ勢が一方的に圧倒しているわけでもありません。

伊賀FCくノ一三重は、3回戦で三菱重工浦和レッズレディースを2対1で破り、そのまま準決勝まで進出しました。

ASハリマアルビオンも、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースを3対1で撃破。

朝日インテック・ラブリッジ名古屋も、AC長野パルセイロ・レディースに2対0で勝利しています。

一方で、準決勝ではINAC神戸が伊賀を1対0で破り、サンフレッチェ広島も準々決勝でASハリマに勝利。セレッソも準々決勝でラブリッジ名古屋を退けました。

WEリーグの方が、基本的には上。しかし、なでしこリーグの選手が到底通用しないほど、完全に断絶した世界ではない。

むしろ、なでしこリーグには、すでにWEリーグクラブを倒せるほどの力を持った選手がいる。

そうした選手が、日常的により高い強度のトレーニングや試合を経験できれば、さらに伸びる可能性があります。

だからこそ、なでしこリーグからWEリーグへの移籍には意味があるわけです。

選手を引き上げることも、WEリーグの役割

WEリーグが設立された意義には、

「日本の女子サッカーの発展に貢献する」

「なでしこジャパンを再び世界一にする」

という目標があります。

リーグの名称にも、日本に「女子プロサッカー選手」という職業を確立するという思いが込められています。

WEリーグ創設時には、プロ化によってトレーニング環境やゲームレベルを向上させ、すべての女の子がプロサッカー選手に憧れ、WEリーグを目指す世界を作ることも掲げられていました。

WEリーグ公式:日本初の女子プロサッカーリーグが2021年秋開幕

競技レベルの向上というと、代表候補やトップ選手を強化する話ばかりが浮かびます。

でも私は、もう一つ大事なことがあると思っています。

本当はまだサッカーを続けたいのに、続けても生活できないから辞める選手を減らすことです。

中学、高校、大学を卒業するタイミングで、サッカーを続ける場所や、生活していくための収入を得る道が見つからない。

それなら就職しよう。

これ以上続けても、将来につながらないから辞めよう。

そうして競技を離れる選手は、これまで少なくなかったはずです。

WEリーグの設立によって実際にどれだけ離脱者が減ったのか、具体的な数字までは確認できません。

それでも、その先に「職業・プロサッカー選手」という道が存在することは、競技を続ける理由の一つになります。

なでしこリーグで結果を出せば、WEリーグへ行ける。

WEリーグへ行けば、サッカーを職業にできる可能性がある。

たとえ今は仕事と両立する必要があったとしても、地域企業の支援を受けながら、より高い舞台に挑戦できる。

その道が見えること自体が、女子サッカー全体の選手層を厚くすることにつながるんじゃないでしょうか。

トップのレベルを上げることだけが強化ではありません。

将来性のある選手が、途中で競技を辞めずに済むことも、立派な強化です。

18人への違和感は消えたのか

では、セレッソの新体制を見たときの違和感は、全部消えたのか。

いや、消えてはいません。

現在は19人まで増えましたが、シーズンを通して戦う選手層として薄いことに変わりはありません。

怪我人が出たときの対応、ポジションごとの競争、若手選手への負担。

心配になる要素は普通にあります。

また、セレッソがこの人数になった理由について、クラブは具体的に説明していません。

なので、「金がないから18人になった」とも、「少数精鋭を狙った計画的な編成だ」とも断定できません。

ただ、最初に感じた「プロリーグをなめているのでは」という怒りは、少し変わりました。

現在のWEリーグには、クラブごとに経営規模や選手待遇の差があり、リーグ自身も全選手の年俸を底上げする必要性を認めています。

その状況で、ただ「プロなんだから30人全員をサッカー専業で雇え」と言っても、急にお金が湧いてくるわけではありません。

プロリーグを名乗る以上、理想を下げてはいけない。

でも、理想に届いていないクラブを片っ端から「やる気がない」と切り捨てても、リーグは成長しません。

完成形ではない。だから橋がいる

働きながらプレーする選手がいることを、プロリーグとして誇るべきだとは思いません。

将来的には、希望するすべての選手が、サッカーだけで飯を食えるリーグになってほしい。

その方が練習や休養に使える時間も増えますし、「女子プロサッカー選手」という職業も、より強く社会に根付きます。

ただ、まだそこまで届いていない現在、地域企業と連携して選手の生活を支え、なでしこリーグからWEリーグへ挑戦する道を作る長野の仕組みを、「プロらしくない」と切り捨てるのも違います。

長野が作っているのは、完成形ではありません。

なでしこリーグで力を蓄えた選手が、生活を壊さずに、プロの舞台へ渡るための仮設の橋です。

必要なのは、その橋を撤去することではない。

橋を渡る選手を増やしながら、その先に、サッカーを職業として選び続けられる場所を作ることです。

WEリーグは今、スポンサー集め、集客、選手待遇の向上、競技レベルの強化と、いろんな問題を同時に抱えています。

理想から見れば、まだまだ足りない。

でも、なでしこリーグから選手を引き上げ、地域の企業と一緒に生活を支え、プロとして挑戦する機会を作るクラブがある。

INACやベレーザのような強豪クラブも、なでしこリーグから選手を獲得している。

なでしこリーグへ選手を送り出し、経験を積ませて呼び戻すクラブもある。

そして、そこを目指す選手がいる。

現在の姿は、プロリーグとして完成されたものではないのかもしれません。

それでも、女子選手がサッカーを続け、その先にあるプロの舞台を目指すための道は、少しずつできています。

現状は仕方ない。

けれど、「仕方ないまま」でいいわけではない。

理想に届いていない現在を受け入れながら、その理想を諦めない。

今のWEリーグは、たぶん、そういう時期にいるんだと思います。

参考にした主な公式情報

「WEリーグは「上を目指せる場所」になれているか」への1件のフィードバック

  1. レッズの櫻井選手や元大宮でドイツに旅立った久保選手なんかも、練習後に企業へ働きに出ています。
    サッカーだけに集中できる環境にしたいですね。

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