シーズンが終わると、タイムラインはあっという間に契約更新や移籍、新シーズンの日程の話に流れていきます。
もちろんそれはそれで楽しいのですが、その一方で、昨季のアウェイ遠征で見た景色や、食べたものや、帰り道の感情は、意識して残さないとすぐに薄れていきます。
試合の結果は記録に残ります。でも、アウェイ遠征の記憶はそれだけではありません。街の空気、ごはん、スタジアムまでの道のり、天気、現地で感じた雰囲気。そういうものが重なって、あとから「あの遠征、よかったな」と思い出されます。
今回は、ベレーザのアウェイ遠征について、普段から現地に足を運んでいる二人と話してみました。
テーマは一応「昨季行ってよかった遠征」ですが、きっちりランキングを決めることが目的ではありません。むしろ、ランキングを入口にして、それぞれの遠征の楽しみ方や価値観を掘っていく座談会です。
読んだ人が「アウェイ遠征って楽しそう」「次は自分も行ってみたい」と少しでも思ってくれたら嬉しいです。
今回は、なるべく座談会の空気を残しながら、読みやすい形に整えてみます。
まず聞いたのは、二人がいつ頃からベレーザを見ているのか、そしてベレーザを見るようになったきっかけです。
結論から言うと、二人ともかなりはっきりしていました。北村菜々美選手です。
サッカーの入り口は、戦術でもクラブ史でもなくていいのだと思います。
「かっこいい」「見てみたい」「気になる」。それだけでスタジアムに行っていいし、そこから応援が始まってもいい。むしろ、その直感の強さが人を現地へ連れていくのだと思います。
次に、それぞれの遠征スタイルを聞きました。
ともかさんは基本的に一人で行くことが多く、日帰り派。最初は試合が大きな理由だったとしても、一度行った場所が増えてくると、だんだん「その土地で何を食べるか」「どのお店に行くか」が大事になってくるそうです。
「試合あんまり関係ない。最近は場所ですね」と言い切っていたのが印象的でした。
もちろんタイトルがかかっている試合なら行きたくなる。でも、遠征を重ねるうちに、試合だけではなく街そのものが行く理由になる。これはアウェイ遠征の面白さをかなりよく表している気がします。
一方でるぱさんも、一度行った場所へのモチベーションが下がる感覚にはかなり共感していました。
WEリーグは対戦相手も遠征先もまだ多くありません。だからこそ、同じ場所に行くたびに「今回は何を食べるか」「どこに寄るか」が重要になっていくのかもしれません。
ともかさんの場合、もともと別の趣味でも遠征をする文化に触れていたそうです。個人名は出しませんが、アイドルを追いかける中で「遠くまで行く」こと自体への抵抗感があまりなかった、と話していました。
これはけっこう大事な話だと思いました。
熱心なファンがアウェイに行くようになる背景には、試合そのものへの熱量だけでなく、「遠征」という行動に慣れているかどうかもあります。遠征を特別な大冒険ではなく、好きなものを見に行くための自然な手段として捉えている。その感覚が、サッカーにもそのまま接続されているように見えました。
一方で、ホームとアウェイの感覚については二人で少し違いがありました。ともかさんは「スタジアムの中ですることは変わらない」と話していたのに対して、るぱさんはアウェイの方が燃えるタイプでした。
ここから、昨季印象に残った遠征を挙げてもらいました。
ともかさんが挙げたのは、開幕戦のINAC神戸戦、カップ戦の広島、そしてAWCL決勝の韓国。るぱさんは、新潟、長野、大阪、韓国でした。
面白かったのは、試合内容そのものよりも、その遠征がどういう体験だったかの方が強く残っていることです。
ともかさんにとって、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で行われた開幕戦のINAC神戸戦は「今年のベレーザを初めて見た試合」であり、相手チームの吉田莉胡選手が移籍後初ゴールを決めた試合でもありました。ベレーザとしては苦しい内容で、しかも大雨。だからこそ、かなり強く残っているようでした。
広島は、スタジアムと運営の印象が強かった遠征でした。エディオンピースウイング広島に行ってみたかったこと、レジーナが盛り上がっている空気を肌で感じられたこと、そして試合後に牡蠣を食べて新幹線で帰るところまで、きっちり遠征として組み立てていたそうです。
そして韓国。ともかさんにとっては「今年最後の試合」であり、いろいろな感情が残った遠征でした。
るぱさんが挙げた新潟、長野、大阪は、韓国以外は基本的に観光の記憶として残っているとのことでした。ただし新潟だけは、北村菜々美選手が接触で交代した場面が強く残っていたそうです。
るぱさんは、大阪の試合結果や得点シーンについてはかなり曖昧でした。つまり、完全に観光重視派です。
これは、試合の勝ち負けだけでは絶対に出てこない遠征の記憶です。
AWCL決勝の結果だけを見れば悔しい遠征だったかもしれません。でも、その遠征が「初めての海外」であり、「母と一緒に行った海外旅行」でもあったなら、残るものは単なる敗戦とはまったく違います。
アウェイ遠征は、試合のために行くものではあります。でも同時に、人生の中の一日を、その街で過ごすことでもあります。
ともかさんには、元ベレーザの選手を追ってマンチェスターまで行った話も聞きました。
本人はあまり「キラキラした遠征」として語るタイプではないのですが、国内アウェイの延長線上に、自然に海外遠征があるような感覚が面白かったです。
「海外に行った」という大きな話なのに、語り口はかなり淡々としていました。
でも、その淡々とした感じが逆に、ともかさんの遠征観を表している気がします。行きたいと思ったら行く。見たいものがあるなら行く。そこに、必要以上のドラマを乗せすぎない。
たぶんその軽やかさこそ、アウェイに行くうえで一番強いのだと思います。
これからアウェイ遠征に行ってみたい人に向けて、おすすめの遠征先も聞きました。
まずるぱさんが挙げたのは、長野と新潟です。
新潟に住みたい。
かなり強い言葉です。
ともかさんは、大阪と新潟を挙げていました。
大阪は新幹線で行きやすく、試合以外の予定も組みやすい。新潟はごはんと日本酒が強い。長野は空気とスタジアムがいい。
こうして並べると、初めてのアウェイ遠征に必要なのは、必ずしも「絶対に勝てそうな試合」ではないのかもしれません。
行きやすい。食べるものがある。試合以外の楽しみがある。それだけで、遠征のハードルはかなり下がります。
大阪については、二人とも北村菜々美選手のファンということもあり、選手ゆかりのたこ焼き屋さんの話にもなりました。お店はたこやき酒場 choice。スタッフブログにも北村菜々美選手が紹介されていて、店内には現在とは少し違うデザインのサインが飾られています。ヨドコウ桜スタジアムからも行きやすい距離にあるとのことでした。
長野では、るぱさんがスタグルのうどんをおすすめしていました。長野といえば量の多い焼きそばの印象もありますが、橙宴さんのうどんもかなり良かったそうです。
ともかさんはスタグルよりも、試合後に地元のお店へ行くことが多いタイプ。新潟では、ごはんと日本酒が美味しかったお店が印象に残っていて、そこから「新潟に行ったら日本酒は絶対飲みたい」と思うようになったそうです。
遠征の話をしていると、避けて通れないのが試合結果です。
勝った遠征は楽しい。負けた遠征はつらい。普通に考えればそうなのですが、実際にはもう少し複雑でした。
この対比がかなりよかったです。
行くのが大変だった場所で負けると、帰りの足が重い。これは本当にそうです。遠ければ遠いほど、雨が降っていればいるほど、帰り道の敗戦は身体にきます。
一方で、るぱさんの「酒飲めば忘れる」も、遠征の真理のひとつです。
負けても、ごはんが美味しければ少し救われる。美味しいものを食べて、遠征先の時間を楽しめれば、悔しさも少しずつ浄化される。だからアウェイ遠征において、ごはんや寄り道はかなり大事です。
街の話では、ともかさんが「Jリーグが根付いている街」の話をしてくれました。
これはかなり分かります。
駅を出た瞬間にクラブのフラッグがある。商店街にポスターがある。スタジアムまでの道に、街がクラブを迎える雰囲気がある。
それだけで「遠くまで来た」という感覚が強くなります。単に試合を見に来たのではなく、この街のサッカーを見に来たという感じがするのです。
そして、広島のスタジアム体験についても印象的な話がありました。
「サッカーだけ100パーセントで勝負していない」という表現が面白かったです。
もちろんピッチ上の試合が中心です。でも、観戦体験はそれだけではありません。ビジョンの使い方、応援歌の見せ方、初めて来た人を置いていかない仕組み。そういう細かい積み重ねが、スタジアムの空気を作っていくのだと思います。
スタジアムそのものの話では、るぱさんはフクアリ(フクダ電子アリーナ)を挙げました。見やすさと雰囲気を含めて好きなスタジアムとのこと。僕は、ノジマステラ神奈川相模原やちふれASエルフェン埼玉の会場づくりが印象に残っていると話しました。
ノジマステラ神奈川相模原については、るぱさんもイベント面で印象に残っていました。相模原ギオンスタジアムで行われていた来場者向け企画や、国際女性デーに合わせたミモザ配布など、クラブが会場で何を体験してもらうかを考えている感じがあったそうです。
会場の設備、売店、ビジョン演出、イベント、街とのつながり。アウェイに行くと、各クラブがどこに力を入れているのかが見えてきます。
そして、埼スタ(埼玉スタジアム2002)での浦和戦のように、女子の試合では普段あまり感じない「圧」を受けることもあります。
WEリーグの試合は、良くも悪くも穏やかな空気が多いです。だからこそ、埼スタで感じた赤い圧はかなり特別でした。アウェイに行くと、相手クラブの文化やサポーターの温度も含めて、普段とは違うベレーザの試合が見えてきます。
行きやすい遠征がある一方で、やはり大変だった遠征もあります。
ともかさんが最初に挙げたのは鳥取。るぱさんは石巻でした。
天候は遠征の難易度を一気に上げます。
特に屋根が少ないスタジアムや、雨宿りできる場所が限られている会場では、試合前後の時間がかなりつらくなります。るぱさんは、雨の日の遠征について「レンタカーを借りた方がいいなと思った」と話していました。
遠征初心者向けに言うなら、たぶんこうです。
あと、ともかさんの「バスに乗るか、歩くかで迷って歩いて、バス乗ればよかったと思うことがある」という話も、遠征あるあるでした。
歩けそうに見える距離でも、試合後の身体にはけっこうきます。しかも電車に間に合わないなら、ただ疲れただけになります。
遠征には、こういう小さな判断ミスも含まれます。
到着時間の感覚も、人によってかなり違いました。ともかさんは、できればキックオフ2時間前には着きたいけれど、実際にはアップに間に合えばよし、くらいになることが多いそうです。
一方、僕はかなり早く行くタイプです。早く着いても、席に座ってスマホを見ているだけだったりします。それでも、現地で暇をしている方が落ち着く。
このへんは本当に人それぞれです。早く着いて安心したい人もいれば、ギリギリまで寝ていたい人もいる。遠征には正解がなくて、自分に合った時間配分を見つけるしかありません。
ただ、早い便を取りすぎて現地で中途半端に時間が余ることもあるそうです。
遠征は、早すぎても遅すぎても難しいです。
今回、一番聞きたかったのはここでした。
ベレーザを応援したいだけなら、ホームに行けばいい。配信で見ることもできます。それでも、なぜアウェイまで行くのか。
ともかさんの答えは、かなり明確でした。
毎週サッカーがある状態にするには、自分が行くしかない。
かなり力技のようでいて、すごく本質的です。
ホームだけを待っていたら、現地で見られる試合は限られます。でもアウェイにも行けば、週末の予定の中にサッカーを置き続けることができます。サッカーがイベントではなく、生活のリズムになる。
ともかさんにとって、遠征というより、サッカーそのものがかなり日常に溶け込んでいるようでした。
一方で、るぱさんの答えはもっとシンプルでした。
これも、とても大事な話だと思います。
チームを応援する理由は、必ずしもクラブ全体への大きな物語でなくていい。ひとりの選手を見たい。元気にしているのを見たい。その存在を現地で確認したい。
そういう感情が、人をアウェイまで連れていきます。
実際、二人とも北村菜々美選手が出ないことが分かっている試合だと、どれだけ遠征先の環境が良くても腰は重くなると話していました。かなり正直で、でもとても自然な感覚だと思います。
るぱさんにとって遠征は、生活の中でかなり大事な予定になっているそうです。
ここまで来ると、遠征はただの娯楽ではありません。
週末に現地へ行くために平日を乗り切る。遠征費を稼ぐために働く。現地で選手の姿を見ることで、また日常に戻っていく。
アウェイ遠征は、生活の外側にある非日常でありながら、同時に生活を回すための燃料にもなっているのだと思います。
アウェイに行くことで、ベレーザの見え方は変わるのか。
ともかさんは、他クラブのスタジアム運営を知ることで、逆にベレーザの良さも見えると話していました。
これはアウェイに行く人ならではの視点です。
他のクラブの良さを知ると、ベレーザに足りないものも見える。逆に、ベレーザの良さも見える。スタジアムの距離感、子ども向けの取り組み、会場のまとまり方。
アウェイ遠征は、ただ相手のホームに行くことではなく、自分たちのホームを外から見直す機会でもあるのだと思います。
座談会の終盤には、ちょうど発表された北村菜々美選手の契約更新の話にもなりました。
この記事の冒頭で、二人とも北村菜々美選手がきっかけでベレーザを見始めたと書きました。
その二人にとって、契約更新は単なる編成情報ではありません。来季もまた、現地へ行く理由がそこにあるということです。
大阪遠征の話でも、北村菜々美選手の存在感は出てきました。セレッソ大阪ヤンマーレディース戦では、相手サポーターからも愛されているような空気があり、それを見るのも大阪遠征の楽しみのひとつだと話していました。
一方で、契約更新が出るまでは不安もありました。大阪にゆかりのある選手でもあるので、オフの時期には「もしかして」と少し不安になることもありました。もちろん外から見ているだけなので実際のことは分かりません。ただ、それくらい残ってほしい選手だった、ということです。
ひとりの選手が残ることで、人が動く。アウェイにも行く。街でごはんを食べる。スタンドが少し緑になる。
そう考えると、選手の存在が持つ力は本当に大きいです。
最後に、発表されたばかりの来季日程を見ながら、どこへ行きたいかも話しました。
日程表を眺めながら話す時間は、ほとんど遠征好きの雑談でした。長野、広島、仙台、大阪、神戸。行けるかどうかを考えるだけで、もう楽しい。
特に長野は、話しているうちにともかさんの気持ちが少し動いていました。
こういう瞬間が、座談会をやってよかったところです。行ったことがある人の話を聞くと、行ったことがない場所の解像度が上がる。ぼんやり「遠そう」「大変そう」と思っていた場所が、少しだけ現実的になります。
日程的には、平日の仙台がどうなるか、神戸と大阪が近い時期に並ぶところをどうするか、年度末に関西遠征をどう組むか、みたいな話も出ました。
ともかさんが挙げたのは大阪と神戸です。
行ったことがある人の話を聞くと、行ったことがない場所のハードルが少し下がる。
この座談会でやりたかったことは、たぶんこれです。
アウェイ遠征は、最初の一歩が少し重い。でも、誰かが「そこはごはんが美味しいよ」「スタジアムがいいよ」「意外と行けるよ」と話してくれるだけで、少し現実味が出てくる。
今回話していて、アウェイ遠征の楽しさはひとつではないのだと改めて思いました。
毎週サッカーがある状態にするために行く人がいる。選手の存在を見たいから行く人がいる。街の空気やごはんや日本酒を楽しみに行く人がいる。負けた悔しさを抱えて帰る人もいれば、美味しいお酒で浄化して帰る人もいる。
どれも、たぶん全部正しいです。
アウェイ遠征は、試合を見に行くことです。でもそれだけではありません。知らない街に行き、その街のスタジアムでベレーザを見て、帰ってくる。その一連の体験が、自分の中に少しずつ積み重なっていきます。
アウェイ遠征って楽しそう。
次は自分も行ってみたい。
この記事を読んで、そう思ってくれる人が少しでもいたら嬉しいです。
そして来季、どこかのアウェイのスタンドが、今より少しだけ緑に染まっていたら。
それはかなり、いいことだと思います。
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