最近ふと思うことがあります。
サッカーのファンをやっている以上、「選手をちゃんと見る力」みたいなものは、思っている以上に大事なのではないか、ということです。
いや、別にスカウトになりたいわけではないんですけどね。ただ、試合を見て「あの選手は今日は良かった」とか、「いや〜ちょっと厳しかったね」とか、我々はかなり気軽に選手を評価しながら生きています。そしてそれ自体は、スポーツを見る楽しみのひとつでもあります。でも、その評価があまりにも雑だと、見えているものを見落としてしまうことがある気がするのです。
そう思うようになったきっかけは、なぜか最近見ていた野球でした。最近盛り上がっていましたよね、野球。私もネットフリックスで見ていました。
私は野球経験者ではないので、試合をダラダラ見ていても、何が難しいプレーなのか、何がすごいのかが正直よくわかりません。もちろんホームランが出れば「うおー」となるし、三振を取れば「すごい」とはなるのですが、それ以上のことがあまり分からない。なので、選手個人のデータを見たり、用語を調べたりしながら見ていたのですが、その中で「WAR」という指標がおもしろいなと思いました。
WARは「Wins Above Replacement」の略で、ざっくり言えば「その選手がどれくらいチームの勝利を上積みしたか」を見ようとする指標です。もちろん、たったひとつの数字ですべてが分かるわけではないのでしょう。野球にだって文脈はあるし、役割もあるし、数字に出にくいものだってあるはずです。それでも、「なんとなくすごそう」とか、「この選手は人気があるから強そう」みたいなふわっとした感覚ではなく、選手の価値をできるだけ言語化しようとしているのが面白いなと思ったのです。
そこでふと思いました。では、サッカーにおいて「選手をちゃんと評価する」とは、どういうことなんだろうかと。
野球には、少なくとも素人目にも「この打者は打っている」「この投手は抑えている」という入口があります。そのうえで、より細かく見ようとするとWARみたいな考え方にもたどり着ける。一方で、サッカーはそれがかなり難しいスポーツなのではないかと思います。なにしろ、ずっとプレーが連続しています。野球のように一球ごと、一打席ごとに区切られているわけでもないし、誰の責任範囲なのかが見えにくい場面も多い。しかも11人が同時に動いていて、ボールを持っていない時間にも価値がある。
得点やアシストはもちろん分かりやすいです。でも、実際にはそれだけでは測れないことが多すぎる。相手の前進を消すポジション取り。味方が前を向くためのワンクッション。ボールは触っていないけど相手を引っ張るランニング。危ない場所を埋め続ける予防的な守備。たぶん、そういうものが山ほどある。しかもややこしいのが、同じポジション名でも、試合ごとに求められる仕事が全然違うことです。
たとえば同じサイドバックでも、高い位置を取って幅を作ることを求められる日もあれば、まずは後方で安定させることが最優先の日もある。ボランチだって、配球役なのか、回収役なのか、潰し役なのかで全然見え方が変わります。だからサッカーにおいては、「今日は目立っていたから良かった」とか、「ミスがあったから悪かった」だけで語ると、普通に外すのだと思います。
いや、もっと言うと、我々は普通に外しているのだと思います。
かくいう私もそうです。やっぱりシュートを外すと気になるし、ボールロストは印象に残るし、派手なドリブル突破があれば「今日はキレキレや!」となる。逆に、地味だけどずっと正しい立ち位置にいて、相手の攻撃の芽を摘み続けていた、みたいな選手は、気を抜くと普通に見落とします。
便利な言葉もありますよね。「効いていた」「戦えていた」「気持ちを見せた」「今日は消えていた」。便利です。便利なんですが、便利すぎる。便利すぎる言葉というのは、だいたい危ない。もちろん、それらが完全に間違いというわけではありません。でも、その一言で片付けた瞬間に、本当はその選手が何をやっていたのか、何を求められていたのかを、かなり雑に処理してしまうこともある。なので最近は、試合を見ながらなるべく「この選手は今日、何をやる係だったんだろう」と考えるようにしています。これだけで、見え方が少し変わる気がするのです。
その選手は前進役だったのか。安全に循環させる役だったのか。相手のキーマンを消す役だったのか。自分で違いを作る役だったのか。あるいは、あえて目立たないことに価値がある役だったのか。もちろん、そんなものを外から完全に理解できるわけではありません。我々は監督のミーティングに参加していないし、週中のトレーニングも見ていない。「本当は何を求められていたのか」なんて、本人とスタッフにしか分からない部分もかなりあるはずです。
でも、だからこそ大事なのは、断定しすぎないことなのかなと思います。「この選手は良い」「悪い」を鋭く言い当てることよりも、“自分の見えていない役割があるかもしれない”と思いながら見ることのほうが、サッカーにおいては大事なのかもしれません。
数字も、そのための助けにはなるはずです。サッカーにもパス成功率やデュエル勝率や走行距離やら、いろいろあります。最近ではより細かいデータも見られるようになってきました。そういう数字を見ることで、「なんとなく良かった」「なんかダメそう」という感想に、少しだけブレーキをかけることはできる。ただ、個人的には、データのいちばんいいところは「正解を教えてくれること」ではない気がしています。むしろ、自分が気づけていなかった良さに気づかせてくれることのほうが大きい。
たとえば最近だと、Jリーグのクラブでも試合後に1vs1守備の勝率とか、空中戦勝率とか、走行距離みたいなデータをまとめて出してくれることがありますよね。ああいうのって、かなりいい取り組みだなと思うのです。
試合を見ている時にはそこまで印象に残っていなかった選手が、あとから数字を見ることで、「え、この選手こんなに走ってたのか」「そんなに対人で勝ってたんだ」「目立ってはいなかったけど、ちゃんと仕事してたんだな」と見えてくることがある。これってすごくいいことだと思うんですよね。
我々はどうしても、目立つプレーをした選手を記憶しやすいし、逆に地味だけど効いていた選手は見落としやすい。でも、データがひとつあるだけで、その見落としを少し回収できることがある。もちろん、数字だけ見ればそれで全部わかるわけではありません。走っていたから良い、勝率が高いから偉い、と単純に言えるものでもない。
ただ、少なくとも「自分はこの選手のことをあまり見られていなかったかもしれない」と気づくきっかけにはなる。そういう意味で、データは“正当に評価するための答え”というより、正当に評価しようとするための入口なんだろうなと思います。だから、ああいう試合後データの公開はもっと増えてほしいですし、かなり価値のある取り組みだと思っています。そして同時に思うのが、WEリーグでもこういう整理された形のデータがもっと見られるようになったらいいのにな、ということです。
WEリーグもデータ自体は集計しているようですし、それこそ試合ごとの簡単なレポートでもいいし、スタッツを見やすくまとめたものでもいい。そういう形で公開されるだけでも、見えてくるものはかなり増えるはずです。「なんとなく良かった」「なんか今日は微妙だった」だけでは拾いきれない選手の良さを、もう少し掬えるようになるかもしれない。それって、見る側にとっても面白いし、選手にとっても悪くないことなんじゃないかなと思います。
少なくとも私は、試合中そこまで印象に残っていなかった選手の名前が、データを見た時に上のほうに出てくると、それだけでちょっと嬉しくなります。「あ、ちゃんとやってたんだな」と後から気づけるので。あの瞬間、ちょっといいんですよね。自分の目で見えていなかったものを、あとから別の角度で拾い直せた感じがして。そういう意味でも、データ公開はやっぱりいい文化だと思うのです。
まあ、言うのは簡単なんですけど。実際には試合を見ながら「うおー!」「そこで打てー!」「いまのは決めてくれー!」とやっているので、そんな冷静に全員を評価できるわけでもありません。我々は所詮、感情でサッカーを見ている生き物でもあります。でも、それでいいとも思っています。感情で見るのが悪いわけではない。むしろ感情があるから楽しい。
ただ、そのうえで、誰かを褒めたり、逆に厳しいことを言ったりするのであれば、少しだけ立ち止まって、「この選手は何を求められていたんだろう」と考えてみる。それだけでも、選手の見え方はたぶん変わってくる。
サッカーにおいて、選手を“正当に評価する”ことはたぶん簡単ではありません。というより、そんなことを完全にできる人は、たぶんほとんどいないのだと思います。でもだからこそ、自分が見たものだけで即断しないこと、その選手が何を求められていたのかを考えようとすることには意味がある。正当に評価する能力というのは、誰かを鋭くジャッジする力というよりも、雑に決めつけないための想像力なのかもしれません。
……みたいなことを考えていたのですが、次の試合が始まったら多分また普通に「今日なんかめっちゃ良かったな」とか言ってると思います。人間なので。